2022年各賞発表

 

2022年の協会賞・新人賞・文化功労賞の詳細をお伝えします。
「児童文芸」夏号にも、受賞者のお写真とともにすべて掲載されます。

 

第46回日本児童文芸家協会賞

 

『聞かせて、おじいちゃん
   原爆の語り部・森政忠雄さんの決意
 横田明子(国土社)

【受賞の言葉】

 栄えある受賞に、今は喜びと身が引き締まる思いでいっぱいです。
 ノンフィクションの魅力を国松俊英先生の講座で学んだのち、取材した森政忠雄さんが私に託して下さった被爆体験と思いを胸に、原稿を書きました。それを国土社の篠田一希さんがすぐに編集会議にかけて下さいました。そして、山田朗・明治大学教授のご監修を経て、品川幸人さんによる、写真を生かした装丁でこの本は完成しました。支えて戴いたすべての皆さまに心より感謝申し上げます。
 これからも、自分なりのペースで、様々な可能性に向かって書いていこうと思います。
 この度は、本当にありがとうございました。
 
 【略歴】
1957年、東京都生まれ。学習院大学文学部卒。
『ば、い、お、り、ん』でニッサン童話と絵本のグランプリ・童話部門大賞。初の出版となる(BL出版)。他に『線香花火』で毎日新聞小さな童話大賞・山下明生賞、『おねえちゃんがゾウになった』でJOMO童話賞・優秀賞などを受賞。日本児童文芸家協会・創作コンクールで、幼年部門『ふしぎなかさ』と長編部門で、ドイツ在住中の体験をもとに書いた『りほちゃんのグーテンモールゲン』二作同時入選を機に、同協会の会員となり、現在は理事。ジャンルを問わず、子どもの心に寄り添える物語を紡ぐべく、執筆を続ける。
 創作読み物に『アサギマダラの手紙』(国土社)、『「遺伝子組みかえ」だいさくせん』(くもん出版)、『手と手をぎゅっとにぎったら』(佼成出版社)、『四重奏(カルテット)デイズ』(岩崎書店)(同作品で第四回児童ペン少年小説賞を受賞)など。絵本に『こけももむらのゆうびんやさん』(岩崎書店)、『はじめてのおともだち』(国土社)。ノンフィクションに『聞かせて、おじいちゃん ──原爆の語り部・森政忠雄さんの決意』(国土社)。川崎市在住。
 
【選考委員】
村松定史(選考委員長) 石崎洋司 大塚篤子 国松俊英 すとうあさえ 山本省三 
 
【選考経過】
本賞は今回の第46回より、協会会員の2021年刊行の5ジャンル作品全体のうち最優秀作に授与。分野ごと各3名が選に当たり、代表一名が最終審査メンバーとなり理事長を加えて6名で選考。なお、〈絵本及び幼年〉部門は「幼年文学賞」がなかった2020年分を含めた。
 
〈絵本及び幼年〉『パンフルートになった木』巣山ひろみ(少年写真新聞社)
広島の被爆した木の視点で詩的に書かれた佳作。パンフルートへの復活がすがすがしい読後感。文章がすばらしくノンフィクション絵本としてすぐれているが、パンフルートの音色が本当に聞こえてくるような、さらなる広がりがほしかった。
 
〈絵本及び幼年〉『しりとり電車のハヤイチくん』別司芳子(文研出版)
少し障害があるが、しりとりの得意なハヤイチくんを、ひとつの個性として受け止めて友だちになるさくら。暖かな眼差しと細やかな書き振りで楽しく読めるが、スケール、インパクトの不足が感じられた。
 
〈中学年及びエンタメ〉『どっちでもいい子』かさいまり(岩崎書店)
 おとなしい小四のはるがダンスを通じて成長していく過程には多くの少女が共感を持つに違いない。設定も文章もすぐれている。絶妙なキャラクターの配置、心の動きの表現も巧みで飽きさせない。ただ、解決方法が性急で、うまくゆき過ぎの観がある。結末にもっとボリュームを持たせれば、奥行きのある物語となったであろう。
 
〈長編〉風の神送れよ』熊谷千世子(小峰書店)
伊那谷の「コト八日行事」における子どもたちの活躍。コロナ禍に時宜を得た、疫病神を追い出す伝統的神事という目の付け所はよいが、作中人物に血が通う切実さが感じ取れず、展開の遅さも気になった。現代において人と神がどのように関わりを持つのか、その掘り下げがないのが惜しまれた。
 
〈ノンフィクション〉『命を救う 心を救う ー途上国医療に人生をかける小児外科医「ジャパンハート」吉岡秀人』ふじもと みさと(佼成出版社)
 副題にあるように、日本人医師による海外での難病治療を記録した感動的ノンフィクション。子どもたちに海外へ目を向けさせる貴重な報告だが、連ねられている挿話がまとまりを欠き、かえって全体を薄めてしまってはいないかとの意見があった。
 
〈ノンフィクション〉聞かせて、おじいちゃん ー原爆の語り部・森政忠雄さんの決意』横田明子(国土社)
 サブタイトルが示すように、広島の被爆について体験者によって語り出されるまでのドキュメント。その構成は秀逸。小五の孫娘の夏休み自由研究のために話をしたのがきっかけで講演をするようになるのだが、講演録など実際の資料が入れ子の形で作品に立体感を与え、子ども向けノンフィクションとして新しいスタイルが提示されている。被爆者側に立つだけでなく、戦争がなぜ起きたかまで踏み込み、数多くある原爆作品とは一線を画した清新な文学作品として成功している。子どもたちが疑似体験をすることで、命の重さや平和について考える好機となるであろうことも、協会賞に十分値するものと判じられた。
 
〈詩及び童謡〉(かあ)さんのシャボン玉』白谷玲花(銀の鈴社)
 全36編の詩がいずれも母をテーマとした詩集。一貫して生前の母への強い想いがこめられ、長い詩歴を通して安定した世界が構築されている。ただし、大人の感覚や言葉で語られていて、子どもが共感するのは難しいかもしれない。母との関係を自分の成長する時間経過の中で再構築すれば、経過する時の流れを通して訴求力ある作品に仕上げられたのではないだろうか。
 
*本年から異なる5ジャンルを網羅して協会賞を決定することとなった。選考は容易でないが試行錯誤をしつつ、優秀な作を顕彰するよう努めていきたい。

(文責・村松定史)

   

第51回児童文芸新人賞

 

『カイトとルソンの海』
 土屋千鶴(小学館)

 

『カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ』
 いけだけい(偕成社)

 
【土屋千鶴 受賞の言葉】

この度は、思いがけず児童文芸新人賞という素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。大変嬉しく、光栄に思っております。『カイトとルソンの海』は、瀬戸内海の風景の中で生まれた物語です。数年前私は広島へ転居し、家のベランダから海を眺めて過ごす中、芸予諸島の民話を読み始めました。村上水軍など多くの話に心ひかれ、そこから自分も物語を作ろうと思って書いた長編が、この本です。今後は、まず続編を書きたいと思っています。私自身も二人の少年のこれからの活躍を楽しみにしています。
 【土屋千鶴 略歴】
1953年三重県生まれ。1976年京都女子大学文学部国文学科卒業。在学中「京女大短歌会」に入会し作歌を始める。1979年、短歌作品「風景」(筆名:藤桃子)が第25回角川短歌賞候補となる。国語教師として中学・高校で勤務し、また専門学校で国語学の講師をする。2011年、歌集『風景は光に揺れて』(春風社)刊。2015年広島へ転居後、作歌、創作に専念する。2018年「瀬戸内少年記―海人カイトとルソン―」で第26回小川未明文学賞優秀賞を受賞。2021年『カイトとルソンの海』(小学館)刊。「塔短歌会」会員。広島市在住。
 

【いけだけい 受賞の言葉】

「お話が書けていない。」絵本教室で他の受講生の作品を観て感じたことが「物語」を書くようになったきっかけでした。このお話は我が家のイシガメ達の日向ぼっこを何気に眺めていたことが始まりです。様々な方々のお力添えで出版にいたり、今では絵本創作よりも言葉を紡ぐ事をいつも考えています。更にこの様な歴史ある素晴らしい賞をいただけた事、今後、創作の励みとなること間違いありません。ありがとうございました。
 【いけだけい 略歴】
1962年、滋賀県に生まれる。元保育士。神戸市の社会福祉法人立保育園の開園メンバーとして働いた後、滋賀県の公私立保育園で保育士となる。京都のインターナショナルアカデミー絵本教室(現在は閉校)及び、etoteえほん教室で創作を学ぶ。第32回ニッサン童話と絵本のグランプリ、童話の部優秀賞受賞。『カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ』はその作品に加筆して、童話集としてまとめたもの。現在は絵を描きつつ、物語の世界に挑戦することに力を注いでいる。
 
 
【選考委員】
新井悦子 北川チハル 長井理佳 堀米薫 宮下恵茉 深山さくら 横田明子(五十音順)
 
【選考経過】
 2021年内に出版された作品のうち、著者第二作までの単行本が対象。今回は30作品を対象とし、選考委員による一次審査で上位点数を獲得した次の八作品を最終選考に残した。
 
『お江戸豆吉 けんか餅』桐生環(フレーベル館)
 江戸時代が舞台。けんかっ早い若旦那とそれを怖がる奉公人豆吉少年が、ふたりきりで菓子屋を始めて、その絆を深めていく過程がテンポよく描かれている。時代小説ながら、親しみやすい世界は現代の子どもたちも大いに楽しめると思われるが、登場人物たちのキャラはやや類型的な印象もあった。
 
『おむすびころりん はっけよい!』森くま堂(偕成社)
 さんかくおむすび国とまるおにぎり国間のいがみあいから、仲よくなるまでの様子が楽しくユニークに描かれている。絵本としての完成度は高いが、絵によるところが大きいという意見も。トップ同士の戦いのみでの平和的解決というオチに、国民全体を含めてこそが真の平和ではないか、との疑問が呈された。
 
『カイトとルソンの海』土屋千鶴(小学館)
 シャムのアユタヤから船で各地を経由して日本へ連れて来られた奴隷の子・ルソンと、瀬戸内の船乗りの子・カイトとの友情を中心とした中世の歴史冒険物語。村上水軍や日本の遠洋航海、船の知識などを絡め、当時の海と人々の様子が巧みな文章力と構成力で雄大に描かれている。奴隷という過酷な運命を真摯に受けとめ切り開いていくルソンが魅力的。カイトがともに成長していく姿にも好感が持てる。余韻を残すラストも秀逸との声多数。
 
『カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ』いけだけい(偕成社)
 沢にすむカメくんのなかよし、イモリくんが、大雨で家を流されてしまう。離れ離れになった二匹の友情が、ユーモラスな中にもどこか哀愁を帯びて胸に迫ってくる。川や沢に棲む生き物たちのそれぞれのキャラにもほっとさせられて、心温まる読後感だった。アーノルド・ロベルの『がまくんとかえるくん』の影響?との意見も出たが、家を流されるという設定には今日的視点もあり、「小雨ぼっこ」というタイトルや独特の文章表現も作者の独自性の表れと評価された。優れた童話集。
 
『ギンモクセイの枝先に』半田信和(銀の鈴社)
 自然を豊かな感性で見つめ、シンプルな言葉選びの中に、時々はっとするような表現を見つけることができる抒情性豊かな詩集。身の回りの世界への慈しみとさりげないユーモアが心地よかった。ただ、後半に行くに従って、大人の視点が多くなってきた印象が否めず、「こどものこころに向けてつくろうと思いました」という作者の思いを貫いたものにしてほしい、という意見も出た。
 
『スウィートホーム わたしのおうち』花里真希(講談社)
 モラハラの父に服従する片付けの出来ない母。主人公・千紗に逆らってばかりの生意気な妹。家も自分も嫌悪する千紗が、正反対の友だちや不登校の男子やその母などとの交流、実際の掃除を通して「心の洗濯」もしていく過程が、重いテーマながら深刻ではなく軽やかに描かれている。主人公の等身大の姿は、子どもたちの共感を呼ぶと思われるが、現代であるのに関わらず、教育現場にいる教師の両親が「モラハラ」についての知識がないのはあり得ない設定だとの指摘がなされた。
 
『ねこのふくびき』木内南緒(岩崎書店)
 一日だけ人間になれる福引にあたった飼い猫ルークと主人公・みゆとの心の交流が、とてもほのぼのと温かく楽しく描かれていて読み応えがある上質な幼年ファンタジー。脇役の校長先生も魅力的。文章と挿絵もマッチして相乗効果を出している。ただし、猫とは言え、ルークのキャラにもっとひだがあった方が物語として厚みが出るのではとの意見も出た。
 
『ベランダに手をふって』葉山エミ(講談社)
 どちらかと言えば引っ込み思案の少年が成長していく一歩一歩が、大変丁寧に描かれていて心に染みる作品。思春期に入ろうとする子どもの心理がよく書けていて、温かな余韻が残る一方、内容としての目新しさはなく、全体が淡々としていて、盛り上がりに欠ける印象もあった。
 
 以上が、8作品についての討議内容である。
 では、この中からどの作品に決めるか、というところで各選考委員は大いに悩むところとなった。
 そこで、話し合いを進めるうちで、より高い評価を集めた『カイトとルソンの海』『イモリくんとカメくん 小雨ぼっこ』『スウィートホーム わたしのおうち』の3作品で多数決をとったところ、『カイトとルソンの海』『イモリくんとカメくん 小雨ぼっこ』が3票ずつの同数となった。
 この結果を受け、更に話し合いを続けた。
『カイトとルソンの海』は、高学年向き歴史読み物で、現代の子どもたちにはなじみが薄い物語ではあるが、だからこそ、一度手に取れば、子どもたちもその見知らぬ世界にぐいぐいと引きこまれていく魅力があるのは間違いない。
それに対して、『カメくんとイモリくん 小雨ぼっこ』は幼年から中学年向きで、読者年齢も異なり、どこかゆったりとした独特な世界観を子どもたちに楽しんでもらえる、という点で大いに評価できる。
この全く趣向の異なる作品を選出することで、児童文芸家協会としても、力のある新たな作家の発掘、という目的を果たせるのではないか、ということで、最終的にこの2作を本年度の新人賞に決定した。
 
 今回はジャンルとして、長編読み物、詩、幼年・中学年向き読み物、絵本とさまざまなジャンルから優れた作品をあげることが出来て、選考委員は嬉しい悲鳴をあげることしきりだったが、全部を選ぶことのできないジレンマを感じたのも正直なところである。
 それだけ、全体のレベルが高かった年だったということであろう。
 各ジャンルから、これからもその作者ならではの視点やテーマ、描写力を持つ書き手が生まれることを願ってやまない。
 尚、最後になるが、全体の得点で及ばなかったものの、『ろくぶんの、ナナ』林けんじろう(岩崎書店)のサイコロがしゃべる、という卓越したユニークな発想のSFファンタジーを推す委員が複数いたことを追記したい。

(文責・横田明子)

   

第61回児童文化功労賞

 
 村松定史氏
  
[児童文学翻訳家・評論家]

 
【略歴】
1947年、山梨県に生まれる。学習院大学文学部フランス文学科卒業、同大学院修士、博士課程修了。パリ第四大学(ソルボンヌ)博士課程研究免状取得。元名城大学人間学部教授。当協会第九代理事長(2009〜13年)、後監事(至現在)。創作に少年期の回想詩『たそかれ』(芸林書房)(BS週刊ブックレビューで紹介)、絵本『アヴァンの冒険』(リブロ)ほか。19世紀仏文学研究のかたわら、フランス・ベルギーのフランス語児童文学を翻訳。ペヨ『スマーフ物語 全15巻』(セーラー出版)、シャルル・ペロー『長ぐつをはいたねこ』(ポプラ社)、ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』(集英社)、ジャン=コーム・ノゲス『英雄オデュッセウス』(小峰書店)ほか。著書に『旅と文学』(沖積舎)ほか、監修に『ベーシッククラウン仏和・和仏辞典』(三省堂)ほか。近年は仏訳された俳諧の研究と連句実作にもいそしむ。
★所属 日本児童文芸家協会 日本文藝家協会 日本連句協会
★東京都在住